| あらすじ |
刈和野から旧土川村の半導寺にいく途中、田谷を過ぎると、土(つち)買(かい)川(がわ)の岸に出る。ここは川の曲り角で、昔から「バズァ淵」といって名前(土貝川)のように砂利
も岩も無く、底の見えない青黒い水が大きく渦を巻いている。大きな杉林が影を落とし近くに人家もない淋しいところである。「バズ」とは尾のぷっつりきれたようになっている「大蛇」のことである。今年75才で亡くなった爺さんの30才になった春のこと。田中橋(田谷寄りの刈和野の町はずれ)のある家の主婦で、33才の厄年を過ぎた女盛りの人が、この淵のそばの田に草とりに,家の都合で一人で来た。暑い日続きで汗を流しとり続けた。5時過ぎ涼風で一頑張りし、家に帰る時、この日に限って、その淵に入って泥股引きをぬいで汗を洗って、どっぷり腰の上まで浸ってうっとりしていた。この時、すぐ目の前の水が、むくむくと盛り上がり、黒髪をかぶった、大きな蛇体(じゃたい)が頭を上げた。夢中でそのまま我が家にかけ込み、寝床に這入ったまま虫の息であった。1週間も過ぎて漸く、人心地になったという。昔の田は泥が深く、作業衣を着たまま腰の上まで水に入り洗ったが、この淵だけは入らないことになっていたそうだ。 |