| あらすじ |
このお薬師様はもと大沢郷・野田の旧家、伊藤九郎三郎助貞といった家の氏神であった。今から5代前のこの家の婆さんの話で約三百年余り前のことである。常々信心深い婆さんが夜中、目がさめると、すぐ寝部屋の外で、「九郎三郎、助けてけれ」という女の声を聞いた。そのままにしていると、ややしばらくして音がなくなった。それは氏神のお薬師様が、お堂の火事でからだに火がつき、別当の九郎三郎に声をかけてきたのだった。翌朝になってお堂の焼けたことを知り驚いた。昨夜の声はお薬師様と気づいた。お薬師様はしかたなく北の目の船場で雄物川に這入って、からだの火を消し、それから、峰吉川の高寺の観音様に飛んで行ってしまった。こうなったので、集落の者達は、戻ってくれるよう託宣をかけると、「七間四面のお堂を建て、白金(しろがね)の鈴三十三ガラさげれば戻る」とのことであった。野田では無理で、今までよりも大切にするからと、ひたすらお願いすると、「妹をやるので、おれと思って信心せよ」といわれ、今は妹の薬師様をまつっている。それから何年か後、高寺のお堂が古くなり、下方の観音様と一緒になって下さいとご神体を観音堂にお移しした。そしたら、知らないうちに、元の高寺のお堂に戻っていた。また託宣すると、「おれは姉だから上のお堂にいる」とのお告げであった。又、野田の人達が高寺参詣に行くと、今でも、まずお薬師様に参拝してから、観音様に参るならわしとなっている。別当の伊藤家は、昔は伊藤九郎三郎助貞と名のり、肝煎役も勤め、今に古文書や甲冑を伝えている。北の目の貴峰山万勝寺は、慶長11年(1606)の開創であるが、伊藤家はまもなく檀家になった。後代になり今は、神道になっている。
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